おすすめ書籍
辞書になった男 ケンボー先生と山田先生
著者:佐々木健一
税込価格 :880円
ISBN:9784167906856
発売日:2016年8月
世の中の、陽の当たらない部分を描いたノンフィクションが好きだ。
いきおい、犯罪モノが多くなるのだが、日陰の本ならなんでいい。むしろ、栄光の輝きの強烈なハレーションに隠されてしまうような、陰でがんばる人たちについての本に名作は多い。
今回紹介する本も、そんな名作のひとつだ。
誰もが知っている辞書「新明解」「三省堂国語辞典」。
ふだん意識されないが、当然、辞書にも著者・編者がいる。が、その人たちが表舞台に出てくることは少なく、この2冊が元は同じ1冊の辞書から派生し、紆余曲折を経て、日本を代表する二大辞書になったという事実もまた、知る人は少ない。
本書では、元は同じ辞書を作っていたふたりの編者の、友情と相克が描かれる。
本書がすぐれておもしろい点は、ふたりの関係性、心の揺れ動きや軌跡を、辞書の用例から読み取っている点である。
用例としては不自然な文章、繰り返し出てくる意味深な日付、主観的な語釈。
それらが「私信」―特定の人物に宛てた、わかる人にしかわからない、私的なメッセージ―として立ち上がってくる。
牽強付会に過ぎないかもしれないが、公器ともいえる、ひろく一般に公開されている辞書を深く読み解くことで、その中に隠されたメッセージを読み解き、二人の関係性を裏付けていく。
用例や語釈、採択される言葉のあいだからほの見えるふたりの友情、反目、敬意、恨み節。いい思い出や悪い思い出。
その不器用な関係性にぐっとくる。
ひらたくいえば、フリッパーズ・ギターにおけるオザケンとコーネリアスのようなもの、と理解いただいて差支えない。
今年読んだ本ではいちばん面白かった。
おすすめです。
(船橋店 スタッフ)