おすすめ書籍
アフターダーク
著者:村上春樹
税込価格 :704円
ISBN:9784062755191
発売日:2006年9月15日
『アフターダーク』は村上春樹の11番目の長編小説。
これまでの「ぼく」が語る一人称から、三人称で語る総合小説へと向かうターニング・ポイントとなった作品です。
舞台は夜の渋谷。
鼻の奥につんとくる、突発的で不条理な暴力の匂い。眠りから覚めない女。ラブホテルの受付に身を潜める逃亡者。そういった断片的なものが、絡んだりすれ違ったりしながら、淡々と描かれていきます。
何かが始まりそうな予感を孕んだまま、少し唐突な感じで物語は終わりますが、深夜テレビが終わった後のスノーノイズを口半開きで延々見つめているような、ダビーかつ虚無的な読後感にしびれます。
また、映画のシナリオのような文体で書かれているということもあって映像喚起力は凄まじいものがあり、脳内で映像化しながら読むのも楽しい。ニコラス・レフンかディアオ・イーナンあたりが映画にしたらはまりそうです。その意味では、ある種の変異的ノワール小説といえるかもしれません。
めずらしい群像劇であることと、実験的な作風のため、キャリアの中でも異色作に位置づけられる作品ですが、夜の渋谷の喧噪を海の底のような静けさのなかに描いた雰囲気は出色で、「裏ベスト」的に好きな作品です。
(志木店 スタッフ)