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〈ルポ〉秀和幡ヶ谷レジデンス

著者:栗田シメイ

税込価格 :1,760円

ISBN:9784620328263

発売日:2025年3月

今週のおすすめ本

本書の舞台となるマンションに巣食う、権力集中、同調圧力、政治的無関心、民主主義のはき違えなどのあらゆる病理。
読んだ人の90%が、「このマンションは日本の縮図である」という感想を抱くだろう。

おそらくこの理事会の立ち上げ当初は、よりよく暮らすことを目的としていたにちがいない。
しかし権力を手にした人間がどうなるか。
当初の高邁な志はいつしか、自治の名のもとの独裁、粛清、自己保身、金もうけなどに容易にコンバートしていくことは、20世紀の歴史を見れば明らかである。
このマンションとて、例外ではないのだろう。
わたしもかかつて、マンションの理事会だか自治会だかに出席したことがあるが、そこは理事会が管理会社の青年を吊し上げ、断罪する、さながら中世の異端審問のごとき悪意のエーテルに満ち満ちた空間であった。アホらしくなり、バンとテーブルをたたき椅子を蹴倒して立ち上がり、「アディオス!」と叫びながら消火器をまき散らしたくなったが、電話がかかってきたフリをしてそそくさと退散し、二度と出席しないことに決めた。

この構造は本書の読みどころのひとつではあるが、「日本の縮図」という言説を抜きに、本書の魅力を語ることは可能だろうか?
もちろん、可能である。
むずかしいこと抜きに、みんなで頑張って、力を合わせ、ふざけた連中と戦う様は、登場人物たちの個性とあいまって、『七人の侍』的なおもしろさ、痛快さがある。
とくに終盤の総会の章。まるで法廷劇をみるような、手に汗握る展開にしびれること請け合いだ。
果たして勝つのはどちらか。ぜひ自分の目で確かめてください。
読了、タイトルの「秀和幡ヶ谷レジデンス」が「秀和幡ヶ谷レジスタンス」に見えてきます。

(船橋店 スタッフ)

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