「歴史にifはない」、これは、史学を修める際に必ずと言っていいほどお世話になる、E.H.カー「歴史とは何か」の一節を端的に言い替えた言葉だと言われている。
我々個人の「歴史」に関しても、「もしあの時こうしていれば…」と思うことはできても、実際に過去に戻ってその選択を変更することは(現在のテクノロジーでは)不可能だ。
だがしかし、小説はそれを可能にしてくれる。物語の中でなら、歴史にifを持ち込み、そこから想像力を膨らませ、壮大なストーリーを紡ぐことが許される。

本作でローラン・ビネは「もしインカ帝国がスペインとの邂逅前に、銃・鉄・馬を獲得し、病原菌への免疫を獲得していたら」というifを展開している。
この時点でなかなかスリリングな設定なのだが、更に壮大なことに、新大陸から欧州への「逆侵攻」が始まってしまう。
史実では「無かった」が為に蹂躙されてしまったインカ帝国が「全てを持っていたら」？
この「本来ではあり得ない」歴史がどんな結末を迎えるのかは、是非ご自身の目で読んで確かめて頂きたい。

余談だが、本作の原題は「Civilizations」。シド・マイヤーの文明と歴史をテーマにしたシミュレーションゲームをリスペクトして名付けられている。
このゲームをプレイした事がある方は、本書を読みながらニヤリとできる事だろう。

(志木店　担当K)

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