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真剣師 小池重明
著者:団鬼六
税込価格 :628円
ISBN:9784877284596
発売日:1997年4月1日
藤井くんの活躍以降、何度目かの将棋ブームだそうです。当店でも入門書がよく売れ、藤井くんが雑誌の表紙を飾ったりしています。しかし、光あるところには影がある。今回は、将棋の影の部分を描いた本を紹介します。
「真剣師」とは賭け将棋で生計を立てるアマチュア棋士のこと。本作は「新宿の殺し屋」と呼ばれた真剣師・小池重明の評伝です。
プロを目指すも、道場のお金を持ち逃げしたり、そのお金をホステスに貢いだりして破門。素行は不良で、金と女に汚い、人間的にはかなり問題ありな人物です。羽生や藤井くんが血統書付きだとすると、びしょ濡れの野犬です。
けれど将棋だけは鬼のように強い。いってみれば野良の将棋さしが、獣めいた勝負勘と棋力だけで、アマ名人だけでなくプロまでをも次々と破っていくさまがめちゃくちゃかっこよく、剣豪小説を読んでいるような爽快感があります。
本作のもうひとつすばらしい点は、勝負師としては一流である一方、人間としてはとても困った小池を、優しく包むこむような鬼六先生のまなざしです。私たち読者も、小池の活躍や挫折、真剣勝負を夢中になって読み進むうちに、いつしか小池をあたたかな視線で見守っている自分に気づくでしょう。その人間的魅力―いうなれば人間力をいきいきと描いている点が、本書を傑作たらしめています。
将棋の陽のあたらない部分を描いた作品としては、大崎善生『将棋の子』もおすすめです。ともに、全人類必読の人生の課題図書です。