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砦に拠る
著者:松下竜一
税込価格 :855円
ISBN:9784480023520
発売日:1989年10月
『砦に拠る』は、ダム建設反対の旗のもと、たった一人で国家と戦う男・室原知幸の半生と、その顛末を描いたノンフィクション。
その戦い方は、独創性と創意工夫にあふれていて、まるでスケールの小さい黒澤映画をみるようだ。
六法全書を片手に重箱の隅をつつくような訴訟をおこしまくったかと思えば、自然を味方にしたさまざまな戦術、牛や馬による妨害、人糞ぶっかけ攻撃、果てはあひるまで持ち出して国家と拮抗する。
何よりも、ダム予定地に砦として建設した、『蜂の巣城』にしびれる。
増築に増築を重ねて迷路のようになった温泉宿のような異形のDIY大建築は、全国の違法建築マニア垂涎の物件である(スケッチも載っています)。
あまりにも大きな敵と戦う者の姿は、傍目にはひとりで踊っているようにしかみえないものだ。
それを滑稽と笑うのはたやすい。しかしぼくは、そこに己の全存在を賭ける人間の底力をみた。
著者の『豆腐屋の四季』は、シンプルでもろくも壊れやすい豆腐に、自身の貧しい生活を仮託した、しみじみとよいエッセイだったが(1ページにつき1回は「さびしい」と書いているところに好感がもてた)、静かな抵抗と闘争の記録でもある。室原氏とは対照的だが、ふたりとも同じ敵と戦っている、とぼくは読んだ。
そのまなざしがあってこその本書である。講談社文芸文庫で読めるので、ぜひ、あわせて読まれたい。
(船橋店 スタッフ)