おすすめ書籍
羊をめぐる冒険 上 下
著者:村上春樹
税込価格 :各616円
ISBN:(上)9784062749121 (下)9784062749138
発売日:2004年11月16日
村上春樹の初期作品には、登場人物が背負う役割や配置など、実に多くの共通項が見られる。この頃の作品を複数読むと、掲げたテーマに対してどう切り込むかを何度も苦闘し続けた跡であることが伺えるので、初期作から作家自身の歩みを追うと非常に興味深い追体験ができる。
主人公である「僕」は共通して理性的で無関心かつ無感動な人物として書かれている。抱えるテーマは「他者を理解することの不可能性」だ。一見取っつきにくいと思われがちなこの主人公が、読み込んで行くほど、いかに切実にこのテーマと向き合っているかを実感させられる瞬間が来る。そうすると、言葉を尽くして激しく感情表現するよりも、よほど痛切で感傷的な世界が読者に見えてくる。このリリシズムが初期の村上作品の魅力だと思っている。
この作品では最後に主人公が色々なものを捨て去るが、そのゼロ地点から生きようという切なさと疾走感を味わわせてくれるので、後読感は不思議と清々しい。
(奈良登美ヶ丘店 文庫担当)