おすすめ書籍
鬼の筆 戦後最大の脚本家・橋本忍の栄光と挫折
著者:春日太一
税込価格 :2,750円
ISBN:9784163917009
発売日:2023年11月
先日、通勤電車で読了。
春日太一の映画本にハズレはないが、これは規格外の面白さだった。
興味深いエピソードや裏話は多いが、特に『砂の器』における、あの胸がいっぱいになるラストシーン―日本の四季を父子が旅するシークエンス―が、原作では1行にも満たない描写であり、それを発展させたもの、というくだりには、映画の、脚本のマジックをみる思いがした。
橋本脚本の映画は、完璧にバランスのとれた巨大な建築物をみるような印象をうける。本書はそのパースベクティブであり、ガイドブックである。
全部でなくてもよい、ぜひいくつかの映画を観たうえで、本書に触れてほしい。
脚本の巧さを堪能したいのであれば、小林正樹『切腹』を。黒澤、野村芳太郎と四つに組んだ名作群はいうに及ばず、個人的には、地獄から届けられたスーヴェニールのような禍々しさにしびれる凶悪な小品『影の車』がおすすめだ。
橋本は芸術家である以前に腕のいい職人であり、天才にありがちな浮世離れしたところがなく、常にコスト感覚を持ち、実務にも長けていた。世相を見渡す眼力などは、完全に実業家のそれである。
その意味で、仕事術の本として読んでも学ぶべき点が多いし、何よりも戦後日本映画の生き証人が語る通史としての価値も高い。
今年読んだ本では一番面白かった。おすすめです。
(船橋店 スタッフ)